浦和を拠点にまちづくり事業に取り組みながら、税理士としても活躍する堀哲郎さん。
思春期に虜になったお笑いでの天下取りをするため、税理士資格を取得し東京に出るも、自分より優れた才能を持った人をたくさん目の当たりにしたことで挫折。
失意の中、故郷である長野県・駒ヶ根の衰退を目の当たりにしたことから、まちづくりへと興味を持ちます。
長年まちづくりに携わる中で、それぞれの実態に合ったまちづくりあまり行われていないことを実感。
課題解決のために税理士という独自の視点を活かし、まちのお財布事情を見える化する「域内経済循環」を2021年ごろから提唱し始めました。
ここ数年のメディアや講演会への出演がきっかけで、考えに共感した自治体との実装に向けた話し合いが進んでいます。
そんな堀さんに、お笑いで天下取りを目指すきっかけや、「域内経済循環」がまちづくりにもたらす効果について詳しくお話をお伺いしました。
目次
まちのお財布事情を見える化する
━ 本日はよろしくお願いします!それにしても趣のある素敵なオフィスですね。
税理士事務所と聞いて、勝手にスタイリッシュな雰囲気をイメージしていたので驚きました(笑)。
堀さんありがとうございます!
国の登録有形文化財に認定されている建物となっております。
2016年から、主に遊休不動産(適切な活用がされていない土地や店舗)の利活用を中心に「まちづくり」に携わっているのですが、その一環でオーナーさんと対話を重ねて古民家「青山茶舗」さんの2階をリノベーションして、弊社のオフィスとして利活用しておりまして。
━ 素敵な取り組みですね。
堀さん近年、浦和駅や武蔵浦和付近では再開発が進んで新しい建物が増加していますよね。
一方で歴史や文化を感じられる建築物が減少しているので、こちらの物件のように利活用する動きが増えたらいいなと思います。
━ 堀さんはまちづくり事業に取り組みながら、税理士としても活動されているのですよね。
堀さんはい。「お笑いで天下を取るため」に税理士資格を取得しましたが、入口で天下取りに挫折し、今では税理士とまちづくりの二つが本業となっています。
まちづくりにおいて税理士ならではの知見を活かす形で貢献したいなと思いまして、最近は地域内経済循環を見える化する「みんなのまち財」というサービスを提供しています。
━ 「お笑い芸人で天下を取る」のくだりが気になりすぎるので、後ほど聞かせてください(笑)。そして、地域経済循環…。専門的なお話が始まりそうで瞼が閉じてきました。
堀さん出来るだけ分かりやすく説明しますね(笑)。要は地域にいくらお金が入ってきて、いくら地域内と地域外で使われているかということです。まずはこちらの図をご覧ください。
━ 地域のお金の流れを可視化した図になっていますね。
堀さんこれは浦和駅周辺(徒歩15~20分圏内)を算定範囲として、最も母数が多い「都内勤務・浦和在住、3名の核家族」を基礎として1家族の所得と消費をベースに約86,000世帯分の平均値を集計したものです。
試算にはさいたま市の国勢調査、税務統計、自治体の決算資料などや伊勢丹を始めとした大型商業施設の年商などを参考にしています。
堀さんさまざまな情報が明示されていますが、まずは黄色い枠で囲まれている数値をご覧ください。
4,787億のお金が手取り収入として地域に住む人の手元に入ってきています。そして、そのうちの実に半数近い2,000億〜2,500億円のお金が地域外に流出しています。
このように、手取り収入のおおよそ40~50%程度が地域外に出てしまうのがベッドタウンの構造的な問題だと認識しています。その結果、自治体や地域に落ちるお金が減少することになります。
━なんと、そんなにも!地域外にお金が流出し続けることで地域にはどのような影響があるのでしょうか。
堀さん私見ですが、自治体に関していえば駅前を再開発し、東京や海外に本社がある大企業によるテナントで構成される大型商業施設を誘致する方針に流れやすくなり、更に地域外への消費の流出が加速していく可能性が高まると思っています。
地元の個人店に関していえば売り上げが減少し、同時に再開発で駅周辺の土地の時価とテナント家賃が上昇してコスト増になるので、閉店につながる可能性が高まります。
そうなると、地域の魅力が減少して、より地域外での消費が増え、地域の魅力がさらに減少するという負のサイクルに陥ってしまうんですね。
今は働き手世代の転入者が多く、入ってくるお金が多いのでほとんどの人は地域外への消費がここまで大きな問題になっていると認識されていませんが、この世代が高齢化して人口減少が進んだ時に地域が継続できなくなる可能性があります。
━ 地域外への消費が加速した上で、地域内に入ってくるお金が減少したら、確かにどんどん衰退してしまいますね。
再開発が頻繁に行われている今が、過渡期といっても過言ではないように思います。
堀さんそうなんです。だからこそ今のうちから、いかに地域内で使ってもらうお金を増やすかが大切で。地域内で使われるお金の量が増えると以下の図のように三方良しの状態になるんです。
━ 本当ですね。中長期的なまちづくりを考えると、より域内経済循環の重要性を感じられます。なんだか、だんだんと街のことが自分事になってきました。
堀さんもう一つ図を共有しますね。先ほどの図には地域外で使っているお金の総額を掲載していましたが、こちらはさらに細かく、内訳毎に算出した図です。
━ こんなに細かいところまでわかるのですね。なんとなく、そうとは思っていましたが「教養娯楽費」と「外食」が多い!
堀さんそうなんですよ。こうやって内訳毎に数値で見るとより実感できますし、どのようなアプローチをすれば、地域内で使うお金を増やせるのか明確になりますよね。例えば「教養娯楽費や外食費を地域内に転換するために地元の野菜を使った料理を振る舞うイベントをしましょう」といったような感じで。
━ たしかに、可視化ができることによって具体的なアプローチが考えやすくなりますし、自治体・まちづくりのプレーヤー・地域住民が同じ方向を向きやすくなりますね。
堀さんそうなんですよね。幸い既に地域のために動いているプレーヤーはたくさんいて、良質なコンテンツも実はたくさんあるんですよ。
ですが、今はそれぞれが想い想いに別の方向を向いて行動している状況なんですよね。
それぞれの得意なことを活かして、結果的にまちづくりに関わっている状態になるのが一つの理想ですが、自分の活動が地域のためになっていることが数値でみえると、一つのモチベーションにもなると感じています。
今は地域経済の状況を知る術がないので、それぞれの地域活動にほとんど加味されていないんですよね。
━ そうですね。たしかに自分の活動が本当に地域のためになっているのか、具体的な指標がないので不安になってくるし自己満足で終わってしまっている感じも受けます。
ですがこの概念を個々のプレーヤーや地域住民が認知し、動いたとして効果は微々たるものですよね。その結果、途中で挫折しかねない気がします…。
堀さんおっしゃるとおりですね。地域経済循環の概念を地域に浸透させ、効果を最大化させるためには、影響力が大きい「自治体」に理解・賛同してもらい、一緒に動いてもらえるかが重要だと感じています。
自治体が地域経済循環を軸としたまちづくりをするようになれば、まち全体で同じ方向を向くことに繋がりますよね。
ただ、浦和のあるさいたま市のような大きい規模の自治体になればなるほど、理解してもらうのが難しかったり、概念を浸透させるのに時間がかかるので、まずは小さい規模感の自治体も並行してアプローチをしていきたいなと考えています。
━ 他の地域で実績を作ってから、浦和やさいたま市に対してもアプローチしていきたいと。
堀さんそうですね。この1年弱でメディアや講演会・勉強会でお話をする機会がありまして、具体的なオーダーをしてくださる自治体さんもありましたので、今はそのような案件を進めて実績やノウハウを蓄積している段階です。