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農家の個性、ゆるやかな関係性を大切にしながら、さいたまに“有機的なつながり” を増やしていく。「さいたま有機都市計画」

地域のつながり方


2020年春に、さいたま市近辺で有機農業を営んでいる農家を中心に結成された「さいたま有機都市計画」。
農家同士の定期的な情報共有やアイディア交換、地域のマルシェ・イベントへの出店、有機農業関連のイベント企画・運営を中心に活動しています。

昨年の11月には〈畑と街をつなぐ〉というコンセプトのもと、浦和パルコ前の浦和駅東口駅前市民広場で「さいたま Organic City Fes. 」を開催。
多方面から反響があり、さいたま市における有機農業への関心の高さを感じさせました。

グループとして明確な目的やルールを持たず、農家の個性や農家同士のゆるやかな関係性を大切にする姿勢に惹かれてか、多種多様な方がサポートメンバーとしてグループに参加しています。

今回はグループ代表の田島さんと発足メンバーの内藤さんに、発足の経緯や運営をする上で大切にしていること、11月11日に開催される「 さいたま Organic City Fes. vol 2」の概要を中心にお話を伺いました。

さいたま市を有機農業で盛り上げる

━━ 本日はよろしくお願いします。まずは「さいたま有機都市計画」の活動についてお伺いさせてください。

内藤さんさいたま市近辺で有機農業を営んでいる農家を中心に結成したグループで、定期的な情報共有やアイディア交換、地域のマルシェ・イベントへの共同出店、有機農業関連のイベント企画・運営がメインの活動です。

━━ 何人のメンバーの方が所属しているのでしょうか。

田島さん立ち上げ時は5人でしたが、現在は15人の農家が所属しています。
農家だけではなく、グループの想いや活動に共感してくださった方が80人ほど、サポートメンバーとして参加しておりまして。
定期的に一緒にメンバー同士の交流会を行ったり、それぞれの興味関心の範囲で活動全般の支援・補助をしてもらっています。

お話を伺った「こばと農園」の田島さん

━━ 農家の方以外にもたくさんの方がサポートメンバーとして参加されているのですね。いつ頃、立ち上げたのでしょうか。

内藤さん2020年の春頃です。
少しずつさいたま市近辺に有機農家が増えてきたタイミングでしたが、お互いに顔見知り程度の関係に留まっておりまして。

グループを作って活動した方が栽培技術の共有や取引先の拡大の面でメリットがあること、さいたま市を有機農業で盛り上げたいという想いから、私から田島さんに声をかけたことが最初のきっかけです。

━━ まず初めに、田島さんに声をかけられたのですね。

内藤さん はい。
田島さんはさいたま市における有機農業の先駆者的な立場だったこと、普段から人と人のつながりを作ることを大切にしていることもあり、すでに多くの方が自然と周りに集まっていたんです。

加えて当時、農業を女性一人で営んでいること自体珍しかったのですが、これから徐々に増加すると感じていたので、このタイミングで田島さんが旗振り役となる有機農家グループを作ることに意義を感じました。

お話を伺った「ないとう農園」の内藤さん。

━━ たしかにその影響か、さいたま市は新規就農する女性の有機農家さんが他の地域に比べて多いように感じます。
グループを作ることのメリット「取引先の拡大」について、もう少し詳しくお伺いさせてください。

内藤さん 個人で有機農業を始めると多量に生産することができないのですが、グループで協力して栽培基準を明確に揃えた品目を作り、大きいロットで販売することによって取引先の拡大ができると考えました。

当初は有機農家版のJA(農業協同組合)を作るようなイメージを持っていましたね。

農家の個性を尊重し、ゆるやかな関係性を大切にする

━━ 協力することで経営の効率化・安定化を図ったのですね。

内藤さん ですが実際に活動を始めてみると、その優先順位は次第に低くなっていきました。

メンバーとコミュニケーションを取るにつれて、それぞれの性格や農園のコンセプト、規模感が全く違うことを実感して、多種多様なメンバーが所属していることこそが、このグループの魅力なんだと気がついたんです。

もちろん、メンバー内で共同出荷を始めたり、経営面での効率化を進めたい人がいたら自由にやってもらっても構いません。
ただグループ全体としては栽培基準や規格を設け売上を追っていくよりも、それぞれの個性が発揮されるような自由度の高さを大事にしています。

田島さん 目的を持ちルールを定めて取り組んでいくというより、ただ所属していること、いざという時に相談しあえる関係性であることがグループの存在意義になっているように思いますね。

まずはそれぞれの畑での活動が最優先。余力の範囲でグループの活動に参加してもらって、結果的にそれぞれの活動に活きたり、精神状態が良くなったり、楽しみが生まれたら嬉しいです。

━━ 浦和パルコ前のような大規模な場所でイベントをされているので、勝手に明確な目的を持って活動されているのかと思っていましたが、そうではないのですね。

内藤さん はい。ですが、ゆるやかな関係性だからこそ自然と栽培技術に関する意見交換が生まれています。

そのように自分たちのペースでグループとしての活動を続けていると、徐々にマルシェに声をかけてもらう機会が増え、個々の農園の認知度が上がり、結果的に取引先の拡大や売り上げの増加につながっているように感じますね。

━━ そのゆるやかさに惹かれてか、多種多様なサポートメンバーの方が集まっていらっしゃいますよね。

内藤さん ありがたいことに、そうですね。

有機農業は化学合成農薬、化学合成肥料不使用などの「農法」に注目されることが多いのですが本質は、資源はもちろん、経済・人の「地域循環」を作ることだと個人的には思っています。

野菜を作って販売するだけではなく、直接地域・飲食店の方にお届けをして日頃からコミュニケーションを取ったり、農業体験の開催や援農を積極的に受け入れることでつながりを積極的に作っていく。
結果的に、農園を通して様々な人がつながり、経済や人間関係が循環していくと思うんですよね。

グループにはこの意識も持っているメンバーが自然と集まっていて、その結果、多種多様なサポートメンバーが集まっているように思います。

田島さん 私たちは有機農家のグループなのですがグループ名に、”農”が入っていません

案を出したのは内藤さんだったのですが、多種多様な人が関わり”有機的なつながり”が生まれている現在の姿をまさに予見したようだなと、今になって思いますね(笑)。

多種多様なメンバーが集まっている要因として、さいたま市には元々、有機農業に興味を持っている方が多くいたこともあるなと感じています。

想像以上の来場と反響があった「さいたまOrganic City Fes.」のアイディアが生まれたきっかけとは

━━ 昨年、浦和パルコ前の浦和駅東口駅前市民広場で開催された1回目の「さいたまOrganic City Fes.」 に多くの人が訪れたことからも、有機農業に対する関心の高さを感じられますよね。ぜひ開催に至った経緯をお伺いできますでしょうか。

内藤さん 2021年に浦和駅東口駅前市民広場で開催された、あるイベントにブースの一画として出店させてもらった時に、駅・大型商業施設の前ということもあってか、多くの方がブースに訪れてくださったんですよね。

その時に、もしもこの大規模空間で有機農業を中心としたイベントを開催したら面白いんじゃないかと思いまして。

田島さん 参加していたイベントが行政の助成金を利用していたというお話をお伺いして、私たちも申請をしたところ無事採択していただけたんです。

普段から関わりのあるさいたま市の農政課の方にもイベントについての相談をしたところ、良い反応をいただき、最終的に共催することとなりました。

━━ ひらめきのような形でフェスのアイディアが生まれたのですね。具体的な内容はどのようなものだったのでしょうか。

内藤さん 「畑と街をつなぐ」というコンセプトで、有機農家の採れたての新米・野菜・フルーツの販売や飲食出店、加えて農的ワークショップ・ステージイベントを開催しました。

想像以上に多くの方に来場していただき、実際の売り上げも今までに参加したどのマルシェ・イベントよりも好調でした。
行政の方や助成金の関係者の方からもご好評いただき、開催後にもその影響の大きさを感じました。

出店メンバーの集合写真

━━ 具体的にはどのようなところに感じたのでしょうか。

内藤さん 開催後に色々な場でフェスのことを話題にしてもらったり、グループ・それぞれの所属農家がイベントに呼んでいただく機会が増えました。

また市議の方や行政の方にも関心をもっていただき、さいたま市における農業の在り方を考えてもらう一つのきっかけになれたとも思いますね。

田島さん去年に比べて、フェスのチラシを配ってくださる人や置いてくださるお店が増加したように思います。

それと、フェスには「さいたま有機都市計画」のメンバー以外の有機農家さんや飲食店さんにも出店していただいたのですが、参加者同士が顔見知りになることによって、地域としての仲間意識が高まったことは嬉しい副産物でしたね。

「堆肥づくり」を通して畑と街をつなぐ

━━ さまざまな面で想像以上の反響・波及効果があったのですね。今年度のフェスはどのような内容になるのでしょうか。

田島さん 昨年は認知の向上を主な目的としていたので、あくまでイベント内容自体はオーソドックスでしたが、今年度は「畑と街をつなぐ」というコンセプトをより体現することを意識し、去年の内容に加えて”みんなで循環を生み出す 堆肥づくり”を開催します。

ご来場される皆さんのご家庭から出た生ごみを会場で用意したコンポストに投入してもらい、後日私たちで堆肥化し畑へ返します。
当日飲食ブースで使ってもらう容器も自然由来でコンポストに投入できますので、ぜひご協力いただけたら嬉しいですね。

内藤さん生ごみは水分を含んでいて、そのまま捨てると燃やす際にかなりのエネルギーが消費されるのですが、集めて堆肥化し畑に返せれば、野菜が育つ栄養になるんです。
エネルギー消費を抑えられ、肥料問題の解決につながり、有機野菜をより手軽に手にいれることにもつながる。生ごみも有機資源になるんですよね。

何よりもこの事実を知ることで、何気ない生活上の行動が食料生産に関わっているという実感につながると思うんですよね。

将来的にさいたま市内の様々な場所で生ごみを回収し、堆肥化する仕組みが作れたらなと思っています。

「資源の循環」はどの街でも取り入れていかなければいけないことだと感じていて、消費者密集地域であるさいたま市で先行して行うことで大きな効果や影響が生まれると感じています。

━━ たしかに100万人を超える人が住むさいたま市が先行して行うことで、大きな効果・影響が様々な面でありそうですね。グループとしてこれから取り組んでいきたいことや目標はありますか?

内藤さん フェスの準備・開催は規模の関係上、グループで団結して時間をかけて取り組んでいますが、普段の活動は今まで通り、それぞれのペースで関わりながら、お互いに良い影響を与えあえるようなゆるく、持続可能なグループで在りたいなと思っています。

今年度のポスター

編集後記

立ち上げから2年後の2022年に浦和パルコ前の大規模空間で有機農業のイベントを開催した「さいたま有機都市計画」。
これだけ聞くと、とてもエネルギッシュで実行力に溢れるグループのように感じられますが、実際にお話をお伺いしてみると、そのイメージは大きく覆されました。

ルールや目的を持たず、メンバーの個性を尊重。
ゆるやかな関係性であることを何よりも大切にする姿勢がメンバーの主体性を高めたり、多くの人を惹きつける一つの要因となり、結果的に大規模な催事の開催に至っていたのです。

それぞれの畑での活動を第一優先とし、ゆるやかに活動しながらも着実にさいたま市に”ゆうきのたね”をまく「さいたま有機都市計画」。
これから地域でどのような芽が出てどのような循環が生まれていくのか、とても楽しみです。

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