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その人らしい花束を。 / ヒビノイロハニ

個人事業主

「めっちゃかわいいですね!わかりました!」

花屋『ヒビノイロハニ』の店主、倉田さんは、画家さんのインスタグラムのギャラリーを何回かスクロールすると、そう言って、すぐに作業に取り組み始めた。

次々に花を選びとり、長さを合わせるために茎を切っていく。主役となる花を決め、束にしていく。
その一連の動作には一瞬のためらいもない。

作業中の生き生きとした表情を見ていると、なんだかこちらまで楽しくなってくる。

個展を開いてる画家さんへのお祝いにと、アレンジメントを依頼した。

「プレゼント用のアレンジメントや花束を作るときは、渡す相手の方の趣味嗜好、性格、仕事、服装などについて聞かせてもらうんです。そこから得たインスピレーションを元に作っていきます」

限られた情報から作られたはずのアレンジメントは、驚くほどに画家さんの世界観が表現されていた。

花屋『ヒビノイロハニ』は、東浦和の住宅街にある広さ約3畳の小屋で営まれている。
元々、大手の花屋で働いていた倉田さんが独立して、2022年3月20日に開店した。

「この小屋は全て手作りなんですよ。旦那さんがメインとなって2人で作りました」

全てですか…?

と、思わず聞き返す。
旦那さんが建築関係の仕事をしているのではと思ったが、そういうわけでもないらしい。

「夫の職業は建築とは全く関係ないです。でも休みの日に簡易的な滑り台や卓球台などを作ることがあったのでもしかしたらと思って」

旦那さんが作った滑り台

小屋の建築を相談してみたものの「それはさすがに出来ない」と最初は断られてしまった。

「その後、何回も話し合いました。私は夫に対して『いや、出来る!小屋が出来ないと私がお店を出来ない!』と言ったり。話し合いというか、一方的な説得ですね(笑)」

旦那さんは度々「出来ない」と言いつつも、時間を見つけては調べてくれていた。

相談してから約1年半後、手探りの中、着手。
課題が出るたびに調べて、乗り越えることを繰り返した。

試行錯誤を重ねながらも3ヶ月後、無事に小屋が完成。
「想像以上のものが出来ました。夫は『出来ると言って、尻を叩いてくれる嫁が入ればやれるもん』と言ってましたね(笑)。本当に感謝しかないです」

お店に来店する方の中には、小屋に興味を示す方も多いそう。

「ご夫婦で来店するお客様の中には、奥さんが花を見て、旦那さんが小屋を見ていることも多いです。自分達で作ったと話すと驚かれることもありますね。DIY好きな方にとってはすごく興味深いんだと思います(笑)」

ヒビノイロハニがきっかけで東浦和にDIYの小屋ブームが来る時代も、そう遠くはないかもしれない。

倉田さんが花に興味を持ったのは、大学時代に友達に誘われて参加した花のブーケを作るワークショップがきっかけだった。

「興味があったから、というよりは友達に誘われたから参加しました。小さい頃から、ものつくりが好きだったこともあってか、実際にやってみるとすごく楽しくて」

それから何度もワークショップを受講。
どんどん花の世界にのめり込んでいき、大学卒業後に花屋で働き始めた。

人と関わることも好きだった倉田さんにとって、お客様とコミュニケーションを取りながら、一つの花束を作りあげる花屋の仕事は、天職といえるほど楽しいものだった。

「お客様の反応がその場で見れるのも嬉しくて。花屋は自分の好きなことが全部つまっていました」

働いていた花屋は大手ながらも、発注が店舗ごとに任されていたり、新しいことへの挑戦に寛容であったりと、好奇心が旺盛な倉田さんにとって魅力的な職場だった。

社会人3年目の時に結婚し、3人の子宝に恵まれた。長男が産まれて半年程のタイミングで、子供が子供らしくいられる環境で育てたいと、通わせたい保育園がある東浦和に引っ越してきた。

その保育園では自然の中で遊ぶことが多く、洋服が泥んこになることも珍しくない。
最初の時期は着替えを10枚ほど持たせることもあったという。

「仕事をしながら通わせるには、決して楽な環境ではありませんでした。でも仕事も、子供の育つ環境も、私の性格上どちらも犠牲にしたくはなかったんです」

仕事では子供が生まれたことを機に時短勤務に切り替えた。
働けるありがたみを感じつつも、担当できる業務の範囲が限られ、物足りなさを感じることもあった。
「この状況を打開するために、独立を考え始めたんですよね」
ただ、家族のことを考えるとリスクは負えない。一年半ほど悩む時期が続いた。

「ある時、ふと閃いたんです。悩みの大きな部分って家賃だから、自宅にお店を建てたらいいんじゃないかって」

この閃きが前述の小屋作りにつながった。

小屋の完成までは紆余曲折あったが、会社員の時に経営のイロハを学んだこともあり、お店の開店まではスムーズだった。

開店してみると、苦労よりもまず喜びを感じたという。
「自分が好きな花だけを仕入れることが出来るのは、個人店の良いところだなと感じています。花をお店に並べて眺める時間が何よりも幸せなんですよね」

好きな花だけを仕入れるが、花同士、どんな組み合わせでも合うことを大切にしている。
素敵な花を見つけても、他に可愛く組み合わせられる花がなければ仕入れない。

「絵画のような空間にしたいんですよね。来てくださった方が、この空間を楽しんでくれたら嬉しいです」

そう言いながら花がある空間を見つめ、目を細めた。

お店は2023年3月20日にで開店して1周年を迎える。

「独立してみて、体や心に余裕ができたのは嬉しい誤算でしたね。働く時間を自分で決められて、お家で仕事ができるからこそ、家族と一緒にゆっくり過ごせる時間が増えました」

会社に勤めていた時は時間に余裕がなく、日々をこなすことに精一杯で多くのことが、どこか作業的になっていた。
「今は自分のやりたいことをする時間も出来たんです」

ワークライフバランスが思わぬ形で整った。

現在の環境にありがたさを感じている。「だからこそ」と倉田さんは続けた。
「仕事・家族・プライベート、生きてきた中で今が一番バランスが良いなと思います。まずはこれを継続させていきたいです」

そのバランスを取ることがいかに難しいか、倉田さん自身が実感してきた。

後日、夕方頃にお店を訪れる。
話しをしていると、ちょうどランドセルを背負ったお子さんが帰宅。

「ただいま!」と言うその横顔に「おかえり」と伝える倉田さんは、母の顔になっていた。

SHOP INFO

  • 店舗名:ヒビノイロハニ
  • 所在地:埼玉県さいたま市緑区大間木2ー5ー5
  • お問合せ・ご予約:080ー3241ー6030
  • 営業日時、定休日:要確認(Instagramから。)
  • HP:https://hibinoirohan.thebase.in
  • SNS:@hibino.irohani