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まちのお財布事情を見える化することで、実態に合ったまちづくりを増やしたい。 / 堀 哲郎

まちづくり

地域が一体となったまちづくりに取り組むために

━ 堀さんがまちづくりに興味を持ったきっかけは、なんだったのでしょうか。

堀さん故郷である長野県の駒ヶ根が年々衰退していくことを、肌で感じたことがきっかけです。駒ヶ根に住んでいたのは2歳までなのですが今現在、堀家のほとんどの親族親戚が駒ヶ根に住んでいるんですよね。

それもあり大人になっても数ヶ月に一回は帰省していまして。30年くらいその生活をしていると、街の衰退を実感するんですよね。

━ ずっと住んでいるより、定期的に往来する方がより実感しそうですね。

堀さんそうなんですよ。親も衰退をなんとなく実感しているけど、リアリティがないみたいですね…。
それで、何かまちの力になりたいなと思い、2016年にまちづくりの事業化支援を行う「らしく(株)」を創業しました。

━ 「らしく(株)」創業当初はどういった活動をされていたのでしょうか。

堀さん主に最初にお話ししました、遊休不動産の利活用を行っていました。
例えば、駒ヶ根の空きビルを取得、改修し地元の学生や若者向けのシェアハウスを創設する活動の資金調達設計や投資改修計画の策定を担当したり、埼玉だと川口市の西川口駅前の空き店舗を「YORIAI西川口」というまちづくりの拠点リノベーションをして利活用をしたり。

━ 税理士の知見を活かしたサポートをされていたのですね。

堀さんそうですね、ファイナンスや経営面をメインにサポートしてきました。それからもしばらく、税理士の知見を活かした形でさまざまな「まちづくり事業」に関わったりリサーチしていたんですよね。その中で「まちづくり事業」って本当に幅広いけど、一方で日本の場合はまちづくりにだいぶ偏りがあるとも感じたんです。

━ たしかに、一言で「まちづくり事業」といっても、思い浮かべることは人によってかなり違いますよね。堀さんの地域経済循環の見える化もそうだし、僕のメディアもそうですよね。人によってはマルシェやリノベーションスクールを思い浮かべる人もいるかと

堀さんそうですよね。そこで今まで得た知見を参考に、まちづくりの事業マップを作成してみたんですよね。赤で示した事業が私が担いたい事業となりますが、詳しくはあとで解説させていただきますね。

━ 「営利・非営利」という軸の取り方はよく拝見するのですが「論理的・感覚的」とはどういった軸の取り方になりますでしょうか。

堀さん「論理的」寄りの事業はその活動によって街にどのような影響があるのか、どの程度お金が動くのかを具体的に言語化出来ている傾向があります。逆に「感覚的」寄りの事業は、個々の『想い』や『感性』を重視した活動で街への影響やお金は二の次という傾向がありますね。

━ なるほど。たしかに僕の行っている「ローカルメディア」でいえば街の魅力を伝えたいという『想い』が軸になっていて、自分が得意な写真や文章という『感性』を使って街の魅力を伝えています

堀さんそうですね。「感性」に関しては人によって表現の仕方がいろいろあると思っています。

地域活動を行っている大熊さんと一緒に最近、マンション住民向けに地域の歴史やお店を紹介する街歩きイベントを開催しましたが、まさに感覚寄りの活動ですよね。
街の魅力を伝えたいという大熊さんの「想い」があって、マンションに住んでいる人が街に溶け込みにくい点に着眼したのは「感性」ですよね。

━ 確かに、表現ツールも感性ですし、着眼点も感性になりますね。

堀さん逆に「論理的」な事業でいうと今、浦和駅西口付近で行われている『マンション建設の再開発』がまさにそうで。事業マップでいうと左上3つの事業が関わっている部分ですね。再開発を行うことで、自分達にどのくらいのお金が入ってきて、10~20年スパンで街にどのくらいの経済効果がもたらされるのかの概算を数値で表せますよね。

━ たしかに、試算が明示されますし、その規模感も莫大で何百億円というお金が動きますよね。

堀さんそうなんですよ。街への影響力や予算でいうと左上3つと、そのほかでは果てしなく遠い距離があるんですよね。

━ 本当ですね。街への影響力でいえば、例えば僕のメディアで飲食店を紹介することによって、多少お店の紹介になって売り上げに繋がるかもしれませんが、再開発では立ち退きが発生して、お店自体の存続につながることもありますよね

堀さんまさにそうで。もちろん菊村さんのメディア含め、どの活動も魅力的でそれぞれの役割があると思いますが、影響力の差は認めざるをえない事実ではありますね。

━ たしかに、そうですね。 「街への影響力・文化や歴史に対する考え・予算」さまざまな面で両者の隔たりがあるのですね。

堀さんそうなんですよ。では両者が分かり合えないのかというと、多少の歩み寄りは出来るなと感じているんですよね。

━ 歩み寄りというと。

堀さん例えばマンションのデベロッパーさんが30階建てのマンションを建てますと。
その時に、その地域の歴史や文化や風土を調べて、デザインに反映させたり、昔から地域で活動しているお店を一部スペースに入れ込んだり、地域間の交流が生まれるようなスペースを作ったりすることは出来ますよね。

まさに北浦和にある総戸数55の「コミューンときわ」さんは一階に社会的な活動をされているカフェなど地域に密着したお店が入ったり、住民が楽しめる中庭やフリースペースがあったりします。

オーナーさんの想いが素晴らしいという前提はあるのですが、それほどの規模で出来るなら、大手の業者さんも出来るのではないかなと思うんですよね。

実は今建設されている西口のマンションも都市計画の兼ね合いで地域住民との意見交換する機会は設けられていたのですが、期間が短く、地域住民側の認知は低いですよね。

━ 意見交換の機会があったとは知らなかったです(笑)。

堀さんですよね(笑)。地域に愛されることが、マンションの繁栄にも繋がると思うんですよね。
そう考えるとしっかり住民の声に耳を傾け、反映させることが大切なんじゃないかと思うんです。

ですが、現状そのような歩み寄りはあまり期待できないので、架け橋になるような存在も必要だと思ってまして。

━ 今回の話でいうと、マンションデベロッパー側に地域住民の声を聞くよう、促す存在ですかね

堀さんそうですね。そういった架け橋のような役割を自治体が担ってくれると一番良いのですが、一筋縄にはいきません。
だからこそ、私や一緒に動いてくれるパートナーが自治体に架け橋となるよう、促す役割を担っていこうと考えています

━ その事業が図の赤い部分となるのですか?

堀さんそうです。その一つが先ほどお話しした「地域経済循環」で。
自治体が地域経済循環の実態把握をして中長期的な計画を立てることが出来れば、必然的に左上3つとそのほかのまちづくり活動の歩み寄りが大切だと感じると思うんですよね。

━ そうですね。現状、自治体が動けないのは組織の大きさや、さいたま市が誕生した経緯などさまざまな複雑な問題がありそうですね。

堀さんそれはあると思います。
現状、転入者の増加に対応することを考えると、たしかに再開発は免れないことかと思います。
まずは地域の歴史や文化、地域住民同士のコミュニケーションを配慮しない無機質なマンションを建てた結果、街にどのような影響があるのか、将来的に街がどうなるのかを考えて多様な人が対話できる機会を増やしていくことが第一歩だと思います。

さいたま市という大きな自治体に地域経済循環の考え方を理解・採用してもらうためにも。まずは他の自治体でも並行して成果を出していくことが重要だと思います。