繊細で奥深い「アメリカンベイク」を日常から離れた空間で。 / ネストベーキングカンパニー

「繊細で奥深い…ですかね」

北浦和にあるアメリカンベイクカフェ『ネストベーキングカンパニー』の店主、尚美（なおみ）さんに「アメリカンベイク」の特徴について尋ねると、しばらく考え込んでから言葉を絞り出すように、そう答えてくれた。

アメリカンベイクは比較的、素材の組み合わせや製造工程がシンプルだ。
それゆえに素材の味がダイレクトに伝わるので、素材選びと一つ一つの工程に神経を研ぎ澄ませる。

おすすめのメニューを聞くと「バタースコッチケーキ」を出してくれた。
口に頬張ると、味わい深いコクがじんわりと口に広がり、その余韻を楽しみたくなる。
数種類の砂糖を組み合わせることが、どうやらその味わい深いコクを生む秘訣らしい。

誰しもに愛されるお店の看板メニューの「キャロットケーキ」は、ぎっしりつまった細切りのキャロットに、プチッとした食感のラム酒をたっぷり含んだレーズン、香ばしいクルミのバランスが絶妙で心地よい。
キャロットケーキの良さはそのままに、クセは抑えられていて、誰しもに愛される理由が食べてみてすぐにわかった。

「ネストベーキングカンパニー」のアメリカンベイクは、素朴で飾らない見た目と味ながら、たしかに繊細さと奥深さを持ち合わせている。
今までに抱いていた「家庭で作られる素朴な焼き菓子」というイメージがいい意味で覆された。

尚美さんが「アメリカンベイク」に興味を持ったのは、百貨店で働いていた２０代の頃。
旅行好きで、定期的に長期の休みをとってはさまざまな国を巡っていた。
旅行中、現地の人の生活を体感することが尚美さん流の楽しみ方だ。

さまざまな国を巡る中でも特に『ニューヨーク』に惹かれ、定期的に訪れるようになった。

「ニューヨーカーの立ち振る舞いがとっても好きだったんですよね。基本的にフレンドリーなんですけど過度に干渉しない。でも困っている時には、すぐに助けてくれるきめ細やかさを持ち合わせているんですよね」

ある時は、レストランで隣のテーブルの人が食べている料理が気になり見ていると、店員さんがすかさずメニューを指さして「あれはこの料理だよ」と気さくに教えてくれた。
ある時は、暗い地下鉄内で目を凝らしながら新聞を読んでいると、急に辺りが明るくなった。ふと顔を見上げると隣の人が「これで見えるかい？」と言いながらライトで照らしてくれていた。

そんな旅行中に食べたアメリカンベイクが驚くほどに美味しかったのだ。

３０歳の時、百貨店を退職し実家で酒屋を営んでいる幸康（ゆきやす）さんと結婚。
２０１３年には酒屋を改装しカフェを開店した。

「開店当初はランチを中心に様々なメニューを提供するカフェとして営業していたのですが、大盛況とはいかず試行錯誤を日々繰り返しました」
そんな折にコロナのニュースが世間を賑わい始めるように。

元々お菓子のテイクアウト販売に力を入れたいと考えていたこともあり、思い切って尚美さんがずっとやりたかった、アメリカンベイク専門のカフェに改装することを決意。

コロナ禍のテイクアウト需要も手伝って、改装後は順調にお客さんを増やしていった。

改装した店内には、尚美さんが海外旅行中に手に入れたアイテムが所々に飾られている。

「インターネットや日常から離れてゆっくり考え事をしたり本を読む時間にしてほしい」という想いから店内にあえてＷｉ－Ｆｉを設置していない。
ロゴにデザインされている『量りの針』が少し右に傾いているのは「お店で過ごすことで、ゼロにはならないかもしれないけど、少しでも心の重さが減ってほしい」という想いから。

「誰かにとっての第三の居場所になってくれたら嬉しいです」と尚美さんが話すように、非日常でワクワクする一方で心を落ち着かせてくれる、そんな空間だ。