「カッカッカッカッカッカッ」
リズミカルに、せんべいが網の上で踊る音が店内に響き渡る。
「備長炭はガスに比べると火加減にムラがあるので、生地に均等に熱を伝えるため頻繁にひっくり返す必要があるんです。焼くのは難しいですが外はさっくり、中はふんわりと仕上げることが出来るんですよ」と、せんべい屋『三代目満作』の3代目店主、満作さんが教えてくれた。
せんべいが焼きあがると専用のハケを使用して、「小豆島の生醤油」を均一になるよう意識しながら、表面をなぞるように塗っていく。
塗り終えるとせんべいをザル、備長炭の上の順番で乾かす。
手の指の感覚とせんべいの香りで、乾き具合を確かめながら定期的に混ぜ合わせていく。
「作業はこれだけなの。話の聞きがいがないでしょ」と、笑うのはお店の2代目店主で満作さんの母、知代さん。
焼いて、塗って、乾かす。
複雑な作業ではないが、話を聞いていると、その一つ一つが洗練されていることを実感する。
「どうぞ」と知代さんが、出来立てのせんべいを試食させてくれた。
「カリッ」
心地よい音が店内に響き渡る。
噛むほどに、フワッと広がるお米の甘み。その甘みを引き立たせるように後から生醤油の風味が心地よく鼻を抜けていく。
茶筒に入る小ぶりなサイズとは思えないほどの満足感と、もう一枚食べたいという欲求が頭の中を交差する。
「米本来の甘みを活かすために味付けは、生醤油だけ。手前味噌になるけど、他のせんべいは食べられなくなるわ」と知代さん。
その言葉を聞いて、思わず頷く。
『三代目満作』は昭和28年より浦和の地において手焼きせんべいを製造、販売している。
現在は満作さんが別の仕事をしていることもあり、知代さんがメインでお店を営業。
「1代目にあたる私の祖父が比叡山の延暦寺で100日修行をしていた時に、『満作』という言葉が降りて来たそうです。下山後、その言葉をお店と孫である私に名付けました。世襲することが定められていたんですよね」と笑う満作さん。
開店当初から製造方法、製造機材、材料は70年間ずっと変わらないが、知代さんの代から満作さんと二人で話し合い、商品に新たなラインナップを追加した。
栄養価の高い秋田県産アマランサスを生地に練り込み、ほどよい塩味でプチプチッとした食感が癖になる『アマランサスせんべい』。
風味豊かな四万十川のあおさを練り込んだ、香り豊かで軽い食感の『あおさせんべい』。
「伝統を守りながらも、時代に合わせて変化する必要があると思っています」と満作さん。
開店当初は周辺に懐石料理屋が立ち並び、利用者のお土産として親しまれた。しかし時代の変化と共に懐石料理屋が減少。
生産性や近年の材料価格の高騰を考えると、効率の良いビジネスでは決してない。
「現在の仕事が落ち着いたら、家業に割く時間を増やしていこうと思っていまして。今後、お店をどうしていくのかは色々と考えているところです」
満作さんは現在勤めている会社で代表理事の役職につき、日々奮闘している。
様々な経験を積んだ満作さんが、お店にどのような変化をもたらすのだろうか。
店名を背負ったその背中は、とても頼もしく見えた。
SHOP INFO
- 店舗名:三代目満作
- 所在地:さいたま市浦和区仲町2-17-6
- お問合せ・ご予約:048-822-8966
- 営業日時:平日 9:00~18:00
- 定休日:日、祝日
- HP:http://mansakusenbei.jp